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お悩み解決!スマートホンムズ~スマホのカバーが嫌だからどうにかしたいリン♪~

「やあ、ググリン君。今日も暑いね。」
 事務所のドアを開けて入ると、全く暑そうではない涼しげな顔でスマートホンムズが迎えてくれた。室内は絶妙な具合に湿度と温度が調節されていて心地よい。
「真夏というだけでは済まないほどの猛暑だリン♪」
 私は大量に流れ出る汗を吸い取った激吸収タオルを絞った。気温はここ一週間ずっと40度超えを記録しており、連日のように熱中症患者が続出している。

 私はググリン。「大統領がトイレ(大後)にスマホを落としちゃった事件」以来、友人兼押しかけ助手としてスマートホンムズとの交流を続けている。
「一体、今日は何をしていたリン♪?」
「ああ、顧客からこれの製作を依頼されてね。」
 スマートホンムズがひらひらと振って私に見せてくれたものはおそらくスマホ…なのだが、普通のスマホには見えない。どうやらマスクとしても使えるスマホなる奇妙奇天烈なものを作っていたらしい。どのようにマスクになるのかは、完全に企業秘密なのだが、実は魔法が使われている。この秘密を知っているのはスマートホンムズ本人を除き、今のところ私一人である。
 類いまれな魔力を持つスマートホンムズはその能力を存分に発揮し、これまでにも通常の方法では困難な数々のスマホの悩みを魔法で解決してきた。また彼は、“香りを送るアプリ”や“半径1メートル以内スポット天気予報アプリ”などを開発し、莫大な利益を得ている。やはりほぼ全てに魔法が使われているそうだ。アプリを動かすプログラムには魔法術式が組み込まれているらしい。
「術式自体は誰でも書けるよ。ただ、開発時に魔力を注がなければ単なるバグにしかならないけどね。」
 と、スマートホンムズはイケメンスマイルで私に解説してくれたのだが、詳しいことはさっぱり理解できない。もちろん魔法を使わずとも解決できるような依頼を持ち掛けられることもあるのだが、どんな難問でもあっさり解決してしまうという評判がセレブや金持ち連中に広まってしまったせいか、ここ最近は特に魔法がらみの案件が多い。
 スマートホンムズは超絶イケメンだ。最近は加齢臭がしてきちゃったよ、などとぼやいていたが、とてもBMI値30で体内年齢55歳の私と同じ40代だとは全くもって信じられない。鍛え抜かれたボディを眺めていると、男である私でさえ彼に今すぐ抱かれたいと思わずにはいられない。とまあ、私のようにスマートホンムズの魅力に取りつかれてしまう男もいるのだが、顧客はやはりなのか女性が圧倒的だ。

 突然、事務所のドアが激しく開けられる。と同時に、誰かが倒れ込んできた。頭から床に倒れて大惨事かと思われたが、無事にスマートホンムズが優しく受け止めた。女性のようだ。
「お嬢さん、いかがなさいましたか?」
 と、言って介抱しながらも、スマートホンムズはラッキースケベとばかりに彼女の尻や胸などを激しくなでまわしている。超絶イケメンだが、彼は残念なくらいに嫌らしい変態でもあった。しかしそれでも、好意を寄せられるのだから不可解極まりない。以前、あまりにも羨ましいと思った私は、一体どうすればそんなにモテるようになるのか?と聞いたことがあったのだが、
「ふふ、企業秘密さ。」
 と、はぐらかされてしまった。あ、魔法か…。
「ググリン君、気つけのブランデーを頼む。」
 彼女は気を失いかけているらしい。私は急いでバーカウンターに向かった。
「どうやら今日もスマホに関する事件のようだね。」
 と、スマートホンムズは言うが、単に熱中症患者が来ただけじゃないのだろうかと私は思う。

「ああ、スマートホンムズ様、スマホのことで是非助けていただきたいのですわ。」
 と、気つけ薬で落ち着いた彼女は言った。熱中症ではなかったようだ。まだ相変わらずスマートホンムズに体中を触られているというのに、顔を赤らめながらも嬉しそうにスマートホンムズを見つめている。ブランデーはもう必要ないだろうに、お互い飲み回しているのはなぜだ。今回もスマートホンムズ信者が増えるらしい、クソッ!

「突然訪ねて申し訳ありません、実は…」
 スマートホンムズに誘導されダブルベッドに横たわった彼女は語り始めた。
 彼女の名は樺無 鶴乃(かばなし つるの)、28歳。美人である、とまでは言えないが汚いわけではない。目は大きめでぱっちりとしている。長いまつげとやや厚めのぷっくりした唇が魅力的だ。背は平均よりも低めだろう。やや太めの体形だが、起伏に富んだラインが悩ましい。倒れ込んでくるほどの悩みを抱えているためか、顔には疲労の色がまだ見られるが、気つけのブランデーとスマートホンムズ効果でみるみる回復してきた彼女は、非常においしそうであり、そそられる。
「かの有名なスマートホンムズさんに相談してみるべきと、夫が強く言うものですから。こんなことのために相談してもよいものかと散々迷ったのですが、本当に来てよかったですわ。」
 と、鶴乃さんは喜んでいるが、まだ解決もしてないだろうにと私は思う。

「このスマホを見てください。」
 と、言って鶴乃さんが手提げのバッグから取り出したのはスマホだ。
「どう思う、ググリン?」
 と、スマートホンムズは私を見る。どう思う?と聞かれても普通のスマホにしか見えない。強いて挙げれば汎用のスマホカバー付きだ、ということくらいか。
「特に変わったところは見つからないリン♪」
「ググリン、君もまだまだだね。問題はこのスマホカバーだよ。」
 そんなわけはないだろうと思うのだが、
「さすが、スマートホンムズ様ですわ!」
 え、そうなのか?一体どこが問題なのか私にはさっぱりわからないが、スマートホンムズにはわかっているようだ。ズバッと問題点を当ててしまったスマートホンムズを見る鶴乃さんの瞳は、もう彼に釘付けである。全くわからなくてがっかりした私を、スマホカバーに目を向けただけでも大したものだよ、とスマートホンムズは慰めてくれた。
「つるつる、ですね?」
 と、スマートホンムズは意味ありげなキーワードを投げかけたが、つるつるではなく鶴乃さんだぞ。
「はい!まさにそのことなんです。」
 またか!私には何が何やらさっぱりわからない。スマートホンムズは絶対に魔法で鶴乃さんの心を読んでいるに違いない…。ずるいぞ、魔法。

 鶴乃さんは、つるつるが好きなのだそうだ。むしろ、つるつるじゃないと発作を起こすほどらしい。
「他人のことなら我慢できますが、自分自身は常につるつるじゃないとだめなんです。」
 全身脱毛で体毛はなく、日頃のお手入れ効果でつるつるだと、なまめかしい腕を見せてくれた。よく見ると身に着けているもの全てがつるつる素材だ。どこまでつるつるなのか、後で詳しく調べる必要がありそうだ。
「でも、髪の毛と眉毛はあるリン♪」
 と、私が指摘すると、スマートホンムズには
「君にはつるつるの髪が見えないのか?」
 と、言われてしまった。確かに鶴乃さんの緩く波打つ長い髪も太めの眉もつるつるのツヤッツヤだ。
「薄いプラスチック製のカバーにすればいいと思うけどリン♪…」
「確かにその通りなのですが…」
 節約のために格安スマホを使っているので、ピッタリな薄いプラスチック製専用カバーが無く、汎用スマホカバーしか合わなかったそうだ。最初は仕方ないと思っていたが、使っているうちにつるつるではないカバーが気になりだし、発作が始まってしまったらしい。
「じゃあ、カバーを付けなければ解決リン♪」
 ところが、そう簡単ではないようだ。
「カバーがないと電源スイッチが押されてしまいます。」
 確かに、ポケットやカバンにカバーなしの状態でスマートフォンを入れておくと、何かの拍子に電源スイッチに物が当たって電源が入ったり切れたりしてしまうかもしれないが。
「画面に傷が付くかもしれないからとか、本体が汚れそうだから、という理由ではないのかリン♪?」
「ええ、それは気になりませんの。画面の傷防止フィルムは反応が悪くなりますし、フィルム周辺にゴミがたまりやすいのが嫌で貼っていないくらいですわ。」
「まあ、どうせ物は使っているうちに汚れるのが自然だし、スマホは本体やOSの寿命が短いですからね。」
「そうなんですの、スマートホンムズ様。でも、電源スイッチはとても気になるんです。」
「勝手に電源が入っても画面はロックされているから、知らないうちに誰かに電話をかけていた!とかは、多分ないだろうとはいえ、確かに可能性としてゼロではないリン♪」
「ちょっと当たっただけで勝手に電源が入ったり切れたりして無駄に電池を消耗するのも嫌である、と。」
「はい、その通りですわ、スマートホンムズ様。」


 スマートホンムズだけに様付け反応を見せるのはやめてほしいのだが、これは仕方がないだろう。しかし、鶴乃さん、電源スイッチ周辺に物が当たるのを避けるためだけに、スマホ全体を仰々しいカバーで覆っているのか。
「つまり、電源スイッチに物が当たっても勝手に電源が入ったりしなければそれでオーケーなのかリン♪?」
「そういうことだ、ググリン。さて、どうするべきか。」
「本当にどうにかしたいのです、スマートホンムズ様」
「わかりました、解決しましょう。」
「まあっ!」
 スマートホンムズは即答したが、大丈夫なのだろうか?

 さて、スマートホンムズは、「何とかならないかな」とつぶやきながらスマホの裏カバーを外したり、電源スイッチ周辺を観察している。どうせいつものように魔法で解決するつもりなのだろうが。
「スマートホンムズ、一体どうするつもりだリン♪?」
「そうだな…、電源スイッチ周辺の改造で解決だな!」
 と、スマートホンムズは答えた。改造だと?魔法ではないのか。
「電源スイッチに物が当たっても勝手に電源が入らないようにするには、スイッチ周辺を改造するのがおすすめなんだ。なぁに、改造と言っても簡単な工作だけだよ。」

「さて…と。じゃあ、始めよう!」
 と、言ってスマートホンムズが用意した材料は、
「エポキシパテにサンドペーパー、デザインナイフ、塗料、筆と…これで終わリン♪?」
「そうだな、あとは机が傷付かないようにカッターマットがあるといいね。」
 まるでプラモデルでも作りそうな勢いだが、何をするつもりなのだろうか。
「ググリンが考えている通りで、プラモデルみたいなものだよ。」
 と、スマートホンムズはこれからの手順を説明してくれた。
 1、電源スイッチを削る
 2、電源スイッチ周辺にパテを盛る
 3、パテを成型する
 4、色を塗る
 …と。完全にプラモデルじゃないか。
「電源スイッチは本体よりも数ミリ出っ張っているよね。まずはこれを削って本体と同じ高さにするんだ」
「そんなことしたら電源スイッチが押しにくくなるリン♪…、あっ、そうすればリン♪!」
「ご名答だ、ググリン!さらに電源スイッチ周辺をパテで盛って電源スイッチよりも高くしてしまえば…」
 簡単には電源スイッチが押せない、つまり勝手に電源が入らなくなるようにできるのか。

「それじゃあ、電源スイッチをサクッと削っていこう。」
 スマートホンムズは、手際よく電源スイッチ部分をデザインナイフで削っていく。何となく嫌らしい手つきに見える。鶴乃さん、嬉しそうに顔を赤らめるのはやめようか。
「ググリンもっ。ググリンもやってみたいリン♪」
 スマートホンムズがサクサクと面白いように削っていくので、私も試したいと頼んでみる。
「君のスマホでやってみればいいよ。」
 鶴乃さんのスマホで万が一にも失敗するのはさすがにまずいということで、自分のスマホで試すことになった。スマートホンムズの削り方は鮮やかの一言に尽きるので、簡単なのかと思ったのだが、なかなか削れない。
「ム、ム。結構硬くて削れないリン♪っ」
 それでも私は無理やり削っていく。
「あリン♪?なんだか電源スイッチから見えてきたリン♪」
「ああ、それはスイッチ内部の部品が見えてきたんだね。」
 機種によって違いはあるが、電源スイッチはスイッチカバーの下にスイッチバネと基板部分という部品で構成されているのだそうだ。
「バネはさらにプラスチックの部品と金属部品に分かれているかもしれないね。」
 スイッチカバー、つまり手で直接触る部分のこと、の裏側の見えない部分は平らではなく、帽子のような形でスイッチバネがはまっている。だから、スイッチカバー部分を削りすぎるとスイッチバネ部分にまで達してしまい、最悪の場合使用不能になってしまうらしい。
「だから、この作業は無理に行う必要はないんだ。」
 いや、そういうことは私が削り始める前に言ってほしかったのだが。鶴乃さん、憐みの目で私を見ないでください。たぶん、あとでスマートホンムズが何とかしてくれる…であろうことを私は切に望む。
 電源スイッチを削り終わったスマートホンムズは、サンドペーパーとダイヤモンドヤスリで表面を整えた。

「次はパテ盛りだ。」
 電源スイッチを削ったことで、スイッチはすでに押しにくくなっているのだが、さらに電源スイッチ周辺にパテを盛り電源スイッチ部分よりも高くすることで、確実性を高める。
「使うのは、プラスチック用エポキシパテだリン♪」
 スマホ本体が薄く、パテがべたつくので加工が若干難しい。
「初めから完全な形を作ろうとするよりも、パテを多めに盛っておくといいよ。完全に固まった後で削るようにした方が簡単さ。」
 と、スマートホンムズが教えてくれた。
「パテリン、パテリンコ♪」
 とりあえずパテを付けたくない部分は、つまようじで取り除く。
 パテ盛り最中も相変わらずスマートホンムズの手つきは嫌らしい。
「さて、パテ盛りはいったん終了です。」
 と、スマートホンムズは言った。
「鶴乃さん、パテは盛るだけで形を完全にするのはほぼ不可能なので、固まった後に成形します。休憩時間にしましょう。」
「まあ、休憩ですの?待っている間、何をしましょうか」
 鶴乃さんは、スマートホンムズから休憩と聞いて顔を赤らめながらそわそわとダブルベッドをちらちらと見ている。
「ご意見、ご乾燥はこちらまでリン♪」

「パテを成形しよう。」
 90分の休憩後、作業は再開した。デザインナイフ、サンドペーパーなどを使ってパテの形を整える。
「おおっと!削りすぎちゃったリン♪」
「削りすぎても気にすることはないよ。またパテを盛ればやり直せるからね。」
「まあ、やり直しですか!」
 素敵、とつぶやく鶴乃さんはスマートホンムズの失敗を期待しているかのようだ。また、休憩したいのだろうか。まあ、スマートホンムズに限ってやり直しは有りえないだろうが、たぶん、おそらく…。

「さて、色を塗りましょう。」
 パテを成形した時点で完成、でもよいのだが、パテと本体の色が違うので格好が悪い。
「プラモデル用塗料などで塗装すると見栄えがよくなるんですよ。」
「まあ、素敵。スマートホンムズ様色に染めてくださいな。」
 あははは。

「今回の事件も無事解決したリン♪」
 スマホカバーが必要なくなりすっきりとした顔の鶴乃さんが帰った後、我々はバーカウンターで乾杯した。スマートホンムズはソフトクリームにコーヒーリキュールをかけている。私は定番スナックやおつまみ類を広げつつ、冷たい牛乳を飲みながらスマートホンムズ特製レアチーズケーキを楽しむ。
「ところでなんだけどリン♪」
 そもそもスマートホンムズの魔法があれば、専用のつるつるカバーを作るくらいできたのでは?と私は聞いた。ほかにも、パテも塗料も簡単には乾かないはずだから、時間短縮魔法で調節しただろうと問い詰める。
「そこは企業秘密だからね」
 と、はぐらかされてしまったが、待ち時間中は私もたっぷり鶴乃さんと楽しめたから、文句はない。魔法最高。実際、魔法なしでやるならパテや塗料は臭いし、改造中はスマホが使えない。パテや塗料は硬化や乾燥にかなり時間がかかるから、余裕のあるときがおすすめだろうと思う。

改造後の私のスマホ画像がこれ。

 スマートホンムズのようにはできなかったが、じゃまなスマホの汎用カバーがなくなったのでよしとするか。改造は完全に自己責任だが、試してみる価値はあるかもしれない。

「スマートホンムズさんの事務所はこちらですか?」
 おや?ノックとともに誰かが来たようだ。

おとこわり

この物語はアフィリエイトを目的としたフィクションです。

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