アニメ雑誌などでみる紙に描かれた動画はとってもカラフルです。色鉛筆で塗った感じに見えます。でもそのキャラクターの色ではないみたいです。なぜこのように色を塗るのか理由が知りたいです。
彩色前の原画や動画になぜ色が?
アニメーション専門誌やアニメのメイキング映像などで紙に鉛筆で描かれたキャラクターを見たことがあると思います。
よく見てみると、単なる線画ではなく、色が塗られていることがわかります。この「色」は色鉛筆で塗られています。しかし、キャラクターに塗られている「色」とは必ずしも同じではありませんね。
なぜ色が塗られているのでしょうか?これはキャラクターの「影」や「黒」、あるいは光が当たって白く光っているように見える部分の「ハイライト」などを指定するためです。
アニメは動画を描く人、色を塗る人などに分かれています。一つのアニメが完成するまでには多くの工程があります。アニメを作る際には、一人の人が全ての工程を行うよりも、それぞれの工程ごとに分かれて専門的に行う「分業制」の方が効率が良いです。
ただし、分業するためには指示を確実に伝えることが必要です。「ここの部分は影にしてくれ」というような指示が動画を見ただけでわかるように、色を塗っているのです。動画の具体的な色を決めるのは、動画を描く人ではなく、また別の人の役割です。動画を描いている段階では、「どこを影やハイライトにするか」はわかっても、「具体的に何色で塗るか」はわかりません。ですから、実際の完成映像とは違う色で塗られていてもかまわないというわけです。
塗り方は大体決まっている
長年の慣習があり、おそらく今もそうなのだと思われますが、塗り方は決まっています。
キャラクターそのものは鉛筆で描かれます。
影の指定線は硬質色鉛筆の青か藍色がよく使われます。なければ普通の青色鉛筆でも構いません。これで普通色と影部分の境目を区切ります。さらに影部分には軟質色鉛筆で色を塗ります。わかれば何色でも構いませんが、緑と黄色は使いません。なぜかというと「黄色はハイライト部分を塗るのに使うから」「緑はBL指定で使うから」です。
ハイライト線は硬質色鉛筆の赤か朱色で区切り、さらに中を軟質色鉛筆の黄色で塗ります。
赤の硬質色鉛筆は「抜き指定」にも使われます。これは「線で囲まれているけれど、色は塗らないよ」という場所を指定するもので、いやらしい意味ではありません。ヌキを指定したい場所にバツ印(×)を書くだけです。ヌキと書いても良いですが、そこらじゅうがヌキで埋め尽くされると、なんだか微妙な気分です。塗り絵でも、「ここは髪の毛なのか背景なのかわからん」という場所がありますよね。動画でも髪の毛あたりに、この×がよく見かけられます。
「緑」はBL指定といって、キャラクターの線と同じように真っ黒で塗りつぶして欲しいところに使います。BLつまりブラック(black)で、やはりいやらしい意味ではありません。アップになった顔の輪郭線とか目のまつげ部分などに多く見られます。緑で塗りつぶすだけでなくBLと書いた方が親切なのは言うまでもありませんが、やはりそこらじゅうがBLで埋め尽くされると、一日中悶々として過ごせそうです。
それ以外の通常の色部分は何も塗りません。塗りに使うのはそこらへんのスーパーでも売っている通常の色鉛筆、要するに軟質色鉛筆で構いませんがさすがに水彩色鉛筆はダメです。動画を水でぬらすと紙が歪んで使い物にならなくなります。
境界線はシャープさが求められるので硬質色鉛筆が使用されます。その辺のお店ではあまり置いていないこともあり、若干苦労します。
作業環境によって変わることも
現在はコンピュータ彩色の為、動画用紙の表面に色を塗ることはまれだと思います。アニメ雑誌などで見かける色付き動画は表面に色を塗っても問題ない原画か、おそらくわかりやすく解説するために特別に用意したものでしょう。
コンピュータに動画を取り込む時は通常、フラットベッドスキャナを使用します。スキャナでは色鉛筆で塗った色もスキャンされてしまい、彩色作業の妨げとなってしまいます。しかし、動画に色が塗られていないと、今度はどこを影に塗るのかなどがわからなくなってしまいます。ですから、現在では動画用紙の「裏」に色を塗ることの方が多いのです。
ソフトウェアによっては、色を自動的に判別し、線画部分のみをスキャンする、影やハイライトの線は識別できるなど、使い勝手の向上が図られているでしょうから、ぜったいに表に塗ってはダメ、裏に塗らなければダメだというわけでもありません。ここらへんは作業環境に大きく左右される部分として考えていただけるとありがたいです。
見やすさ最優先、あとは趣味もかねて
塗り絵を思い出してみるとわかりやすいかと思いますが、絵によってはどこが服で、どこが髪の毛なのかわからない部分などがありますね。
アニメの作画のように分業になると当然同じような事態が起こり得ます。
こういった事態をできる限り回避するために、動画の段階でパーツごとの色分けが行われます。例えば髪の毛の影は水色で、服はピンクと言うように、違う色で塗られていれば、それだけ間違いも少なくなります。
動画の段階では確実に彩色を行えるように指示するためだけに色を塗れば良いので、色鉛筆はせいぜい12色もあれば十分です。原画に至っては影は一色のみということもあります。
しかし、アニメーターの中には「塗り絵も好き」という方も多くいらっしゃいます。仕事的にはなんの得にもならないとわかっていても、ついついいろんな色を使って「きれいに仕上げたくなる」ことも多いです。もともと絵を描くのが好きでやっている方が圧倒的ですので、こればかりは仕方ありません。
以上のような理由から、動画はカラフルに色づけされているのです。
