ようこそ、音楽を楽しみたい者と、だべりたい者たちが集まるミュージックラ部へ!最近作曲トレーニングにはまった尾登賀九郎。作詞は面倒くさいからサイコロで音の数を決めていたのだが、飽きてしまった。メロディーの前に歌詞が必要、とは思ったものの全然思いつかない。「なんでもいいからできるだけ簡単で素早く歌詞を量産する方法はないのかぁっ?!」…果たして?
替え歌にしちゃえば?
「う~む、作詞かぁ。」
尾登賀九郎(おとが くろう)はミュージックラ部の部室でうなっていた。
「『う~ん、さっくり死なないと』ってどうした?、九郎ちん。」
「戸成さん、聞き間違いにも程があるよ?」
部室に入ってきたのは三宇治久(みう なおひさ)と、戸成美自奈(となり みじな)だ。
「ちょうどいいところに三宇先輩!助けてさいよ~、作詞で行き詰まっちゃって…。」
「九郎ちん、息詰まったなら鼻かめよー、死んだら悲しいぞ!」
「いや、そうじゃねぇよ美自奈、曲作るのに歌詞がいるんだけど作詞ができなくて困ってるって話!」
「ああ、そうなんだ。お腹が空いてるならお菓子よりご飯食べたほうがいいよ、九郎ちん。」
「はぁっ…、そうじゃない。お菓子じゃなくて歌詞!歌の歌詞だよ、作詞作曲って言うだろ?」
「ああ、それね!あははは!」
知ってる!、と言って肥えたお腹を揺らして大笑いしている美自奈だが、今度はお菓子をおかしいと勘違いしている様子だ。ミュージックラ部なんだから察してくれよ、と九郎はため息をついた。
最近作曲トレーニングに目覚めた九郎。作詞は面倒だったので、とりあえず歌詞の代わりにと、サイコロを使っていた。サイコロを振って出た目の数を1小節分や1拍分のメロディーの数、と決めて作曲するのだ。初めこそ、予想のつかない展開に面白さがあったのだが、すぐに飽きてしまった。サイコロでメロディー数を決めるだけでは、語感、とでもいうのであろうか、単語や文章が持つ抑揚や言い回し、息継ぎなどを想像しにくいのが欠点だった。歌なしの曲ならそれでもよさそうだが、作った曲を歌いたい九郎には不満だったし、その言葉だからこそ持つであろうメロディーというものがあるはずだ、と思ったのだ。
「だから、先に作詞しようとしたけれど、できなかったと。」
「そうなんです、三宇先輩。」
「ふふ、まさに生みの苦しみだね、尾登賀くん。」
「出し切っちゃったほうがいいよ、膿は!ふんばれっ、九郎ちん。」
「いや戸成さん、たぶんいろいろと違うよ?」
「…まあ、そんなわけなんですけど三宇先輩、どうにかなりませんか?」
なんでもいいからできるだけ簡単で素早く歌詞を量産する方法が知りたいんですっ!と九郎は治久に無茶振りする。
「ふむ、そうだねぇ…、」
と、治久は少し考えてから言った。
「尾登賀くん、替え歌はしたことある?」
「へ?、替え歌ですか?」
替え歌。すでにある歌をもとにして、一部あるいは全ての歌詞を替えて歌う、誰もが一度はしたことがあるであろう言葉遊びだ。
「どんな物事でも、ゼロから生み出すのって大変だよね。何もないところからよりも、枠組みや土台、素材などが用意されていて、それらを調理するほうが、より簡単だ。」
「確かに。」
「作詞も同じで、枠組みを用意すると作りやすいんだ。」
「ええーっと…、じゃあ替え歌に使う元歌がこれから作る詞の枠組みってことですか?」
「そういうことだね。」
九郎は治久のアドバイスを真剣に聞いていた。
「♪と~か~げ~の 無っ駄っ毛~♪」
と、美自奈が突然歌いだす。難しい顔をしていた九郎だったが、美自奈のふざけた替え歌を聞くうちに、これなら確かに簡単そうかもと九郎は思った。
「自分のお気に入りの曲でもいいし、嫌いだけどヒットしている曲でも面白いと思うよ。とりあえず部分的に言葉を入れ替えてみるところから始めてみれば?」
「わかりました。ありがとうございますっ三宇先輩、さっそく試してみます!」
30分後。まだ九郎はうなっていた。
「どうだい?尾登賀くん、うまくいって…ないみたいだね。」
「そうなんですぅ~。元歌に思いっきり引っ張られちゃって、違う歌詞にするのが難しいっす!」
と、治久に泣きついた。
「九郎ちん、難しく考えすぎだよぉ~。もっとテキトーにやればいいんだって、あははは!」
「美自奈みたいにテキトーすぎたら、単なるウケ狙いソングになるから嫌なんだよ!」
「ああ、そこは難しいところだよね。」
反対の意味にする、似たような言葉だが全然違う意味を持つ言葉にする、などは比較的簡単だが、笑いを取るだけの歌に走りやすい。
「そうなんです三宇先輩、あと思わず下品なネタに走っちゃって困ってるんです。」
「それは九郎ちんの性格に問題があるだけだよね?」
「いや美自奈、テメェにだけは言われたくないわ。」
九郎は美自奈の腹に向かってチョップを繰り出すが、素早くよけられてしまった。
「ところで尾登賀くん、どんな曲を元歌に選んだの?」
「それなんですが、俺、あんま歌知らなかったから、とりあえず校歌を替え歌にしてました。」
「あ~…、そっかぁ。」
と、言って治久は上を向いた。
「そこからかよ、九郎ちん。絶望的スタートだよね!」
「し、しょうがないだろ!そんなすぐ思いつかないし、歌詞も覚えてないんだからさぁ。普通そんなもんだろ?ね?三宇先輩もそう思いますよね?」
ね?、と同意を求める九郎だったが、治久は「うーん」と困ったように下唇をかんだままだ。
「え、普通じゃないんですか?」
「うーん…。」
「た、助けてくださいよぉ~。」
三宇すぅぇんぷぁ~い、と九郎は泣きついた。
歌本を使おう
替え歌での作詞を治久から提案された九郎はさっそく取り組もうとしたのだが、致命的なほど歌を知らなかった。替え歌をしようにも、替え歌の元となる歌がないのではどうにもならない。九郎に助けを求められた治久はしばらく考えた。
「うーん、そうだねぇ。…あっ!じゃあこんなのはどうかな。」
ちょっと待ってと、治久はカバンの中から何かを取り出す。
「ん?三宇先輩、何ですかこれは?」
「歌本だよ。」
「歌本?なんですかそれは?」
「文字通り、歌集だね。」
見ればわかるよと、治久は九郎に歌本を渡した。
「おおっ!これは、すごいですね。ヒット曲満載じゃないですか!」
と、九郎はページをぱらぱらとめくる。
「J-POPの他にも、童謡・唱歌、アニメソング、ゲームミュージック、洋楽、演歌とかテーマ別が多いかな?たくさん売ってるんだけど、知らなかった?」
「先輩!私は持ってますよ歌本!歌詞のみとか、歌詞とコードネーム、メロディーの楽譜付きとか色々あるんですよね~。」
美自奈がズバビッ!と手を挙げる。
「手っ取り早くいろいろな歌を口ずさみたいときなんかに、とっても便利だよ、九郎ちん!」
「へー、こんな便利なものが世の中にあるなんて知りませんでした。しかし美自奈まで持ってるとは思わなかった…。」
美自奈はふっふ~んと自慢の腹肉を揺らした。
「でも、これってどうするんですか?」
と、九郎は首を傾げた。
「簡単なことだよ九郎君!ここから替え歌に使えそうな歌を選べばいい。」
「あ、そうですね!」
確かに、と九郎は言って、早速またページをめくり歌を選び始めた。
「三宇先輩、多すぎてどれを選べばいいのかわかりません~!」
「い、いや。そんなに真剣に選ぶ必要はないよ。練習なんだし適当に選んでみて。」
「え、え~っ?!。適当ですかぁ?ほんとにそんなんで大丈夫なのかなぁ…。」
余計に九郎は迷ってしまった。
「あ~、もうめんどくさいなぁ九郎ちん優柔不断!」
さっさと選びなよ、と急かす美自奈だったが、あっ!と何かを思いついたようで、どこかへ走って行った。
「ほいっ!九郎ちん、これ使いなっ!」
1秒で戻ってきた美自奈が出したのは…、
「え、歌本?ん、美自奈のか?」
「そ、そ!適当に選べばいいんでしょ?こうすれば簡単だよ、あはは!」
ベリベリバリッ!
笑って美自奈は豪快にページを破いた。
「な、どうすんだよ美自奈!こんなんしちゃったらもったいないだろ!」
慌てる九郎だったが、美自奈は余裕そのものである。
「いいからいいからぁ~。このくらいのテキト~が絶対合ってるからさ。はい、あげる!」
と、美自奈は破いたうちの何枚かを、これまたいかにも適当に選んで九郎に渡した。それを受け取った九郎だったが、がっかりしてしまった。
「あ~、だめだよ。これじゃあ使えないじゃん。全部歌詞の途中で破けちゃってるよ。」
と、美自奈に返した。
「あははは、ごめんごめーん。じゃあほかのにしよっか。」
「ん?ちょっと待って戸成さん。」
二人のやり取りを見ていた治久だったが、破けてしまったページを見て考えている。
「ふーむ…。確かにこのままじゃあ不完全だけど。…そうだ!ニコイチなんてどうかな?」
「?ニコイチ?三宇先輩、なんですかそれは?」
さっぱりなんのことかわからない九郎だったが、美自奈が勢いよく手を挙げる。
「あ、はいはいはーい!。プラモデルの改造テクニックですよね。私、よくやってます。」
「そう、それだよ。」
ニコイチとは、2種類以上のプラモデルキットのパーツを使って1つのプラモデルを組み上げる、改造手法の一つだ。歌詞も同じように組み合わせて1つの歌詞にすることができるはずだと治久は説明した。
「は~っ、プラモデルですか。まあ確かにその方法なら破けていても使えそうですね…。って、なんで美自奈が知ってて、しかもよくやってるんだよ!」
盛大に突っ込み、美自奈に向かって腹チョップを繰り出した九郎だったが、やはり素早くよけられてしまった。
「え、まあ乱れ髪ってやつかな?あははは!」
「たしなみ、ね?戸成さん。」
「じゃあまずは、2枚選んでみようか。」
「うーん、この中から2枚…。どうやって選ぶか…。」
「九郎ちん、悩みすぎだから目をつぶって適当に選べば?」
「仕方ない、そうするか…」
治久の説明と美自奈の突っ込みを受けながら、九郎はニコイチでの作詞に挑戦することになった。
九郎は歌本のページを適当に破いて取った中から、目をつぶって2枚選んだ。選んだ2曲を使って歌詞の中から言葉を選び取り、1曲に仕上げるのだが。
「三宇先輩、言葉を選ぶときにも迷います。」
九郎がとにかく悩むので全く進まない。
「ああ!もう面倒だからさ、九郎ちん、全部破いちゃお?」
グシャグシャッ!ビリビリバリベリッ!
「うわ美自奈っ!なにしてくれちゃってるの~?!」
待っていられない美自奈が、言葉選びも面倒だからとページをさらに破いた。もはや単語にすらなっていない紙片と化す。そこから美自奈は適当にガバッっとつかんで九郎に渡した。
「どうすんだよこれ…。」
泣く九郎。
「だいじょぶだいじょぶ~。こうやって適当に並べていけばいいだけだよ。」
と、美自奈は机の上に紙片を並べていく。しかし、単語にすらなっていない紙片は、ほとんど意味が分からない歌詞にしかならなかった。
「もうダメだ~!」
頭をかきむしる九郎だが、美自奈は余裕である。
「んで、こうするといいんじゃない?」
適当に並べたページを並べ替え始める美自奈。
「まだ、ほとんど意味がわからない場所だらけだけど、ところどころ面白い歌詞ができあがってきてるね。それなら戸成さん、ここはこうするといいんじゃないかな?」
見ていた治久が、さらに並べ替える。
「お、お~、すげー!さっきより歌になってきてるっす。それじゃあ、ここはこんな風に並べても面白そうかも…。」
「いいじゃん、九郎ちん!」
ブロックを組み上げていくような面白さに引き込まれて、3人は夢中になって歌詞を並べ替えていった。
しばらく歌詞の並べ替えに熱中していた3人だったが、ふと手が止まった。
「こんなもんかな?私的には限界。」
「そうだろうね。」
「ど、どうします、三宇先輩?これ以上は無理そうっすけど、まだ変なところ満載ですよ?」
やっぱりダメだ~!と泣き叫ぶ九郎。
「いやいや、まだこれからだよ尾登賀くん。」
「わかってないな~、九郎ちん。」
「だから美自奈、お前には言われたくねぇ。」
九郎はグスグスと滝涙を流して美自奈をにらんだ。
「まぁまぁ、落ち着いて。尾登賀くん、これ以上は並べ替えられないくらいになったけれど、まだ不自然な箇所がたくさんあるよね?」
「あ、はい。」
「ここからは、修正を加えていくんだ。」
「そもそも作詞をしてたんだからね、あはははは!」
笑う美自奈にムッとしながらも九郎は泣き止んだ。
「美自奈!!。…でも、確かにそうか。いらない部分は削って、足りない部分は加えるんですね?」
「その通りだ。」
「それじゃあ、こことかはおかしいから削って、ここは…言葉を足して、みたいな感じですか?」
「いいんじゃない?九郎ちん。」
九郎は不自然な個所の簡単な修正し始めた。が、ふと顔を上げる。
「あの~、三宇先輩。俺、ちょっと思いついたことがあるんですけど。例えばここのところって削ったり足して修正するんじゃなくて、言葉を変えちゃったほうがいいような気がするんですけど…。」
「もちろんそれもオーケーだよ!そういうひらめきは大事だよね。ぜひ活用すべきだ。」
「ひらめき!きらめき♪きらきらりんっ!♪」
「いや美自奈、いらないわそういうの。」
腹肉をガバチョと揺らしダブルピースをぶちかます美自奈に3度目の正直チョップを繰り出した九郎だが、やはり素早くよけられた。かする気配すらない。
「と、見せかけてのお腹アタックだ、くらえっ九郎ちん。ぼよよ~んっ!」
「ぐはぁっ!これ以上むだに字数増やすんじゃねーよ、美自奈」
吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた九郎を助けつつ、そこはまさにその通りだね、と治久も激しくうなずく。
「と、とにかくただ削ったり足すだけじゃなくて、その場のノリやひらめきも取り入れて自由に作り替えていこう。ある程度骨格はできているからできると思うよ?」
「ぜぇぜぇ、そうですね三宇先輩。ここは修正だけでよさそうだけど、ここは変えたほうがいいだろうな…。お?なんか乗ってきましたよ、俺!」
「その調子だ、九郎ちん。でも、私に乗るのはおあずけだよ?ヒーハー!」
「いや、乗らねーよ!なんの罰ゲームだよ!」
カードを使ってみよう
「ふぅ。なんとかできましたよ、三宇先輩。」
治久と美自奈の助けを借りながら作詞する九郎は、ようやく歌詞に仕上げたのだった。
「形になったみたいだね。」
「九郎ちん、おめでと。で、どうだった?」
「うーん、できたことはできたけどさ。めちゃめちゃ疲れたかな…。」
「特にどこが大変だったかな、尾登賀くん?」
「あー、そうですね、削ったり足したりの修正が単純作業だけど地味に多くて面倒だったっす。」
九郎は腕を組んで振り返った。
「適当に破っちゃってるからね、あははは!」
「いや、破ったの美自奈だからな?」
腹チョップ、を繰り出そうと思ったがやめた九郎、もはや当てられる気が全くしない。
「あとで修正しなくてもいいように、単語とか文節ごとにきれいに切り取る、というのも方法としては考えられるだろうけど、毎回やるとなるとね。」
「うーむ、でもこうなったら…」
「あ!九郎ちん、チョイ待ち!」
あとで楽をするためにもまずは歌本を1冊徹底的に切り刻むことから始めるしかないか、とうなる九郎を見ていた美自奈だったが、急に何か思いついたようでどこかへ走っていった。と思ったが、1秒で戻ってきた。勢いで腹肉は激しく揺れているが、息は全く乱れていない。
「戸成さん、若干存在が不思議だよ?」
「あはは!先輩ったら~。それよりもこれ!持ってきてやったぞ?ほれっ九郎ちん!」
「お、おう…。ん?これはなんだ?」
「狩歌だよ!」
「狩歌?カードゲームっぽいけど?」
美自奈が持ってきたのは「狩歌」というカードゲームだった。J-POPを流しながら、出てきた単語カードを取って点数を競うパーティーゲーム用のカードである。
「なんかJ-POPに出てきそうな単語ばかりがカードになってるな。」
「そうなのさ!“愛”とか“あなた”とか絶対出てくるっしょって感じで超ウケるよね!で、これなら切り刻まなくても使えるよ?!」
「ああ、その手があったね。ナイス戸成さん!」
「ん?そうか、カードをゲームじゃなくて作詞に使うのか!」
スゲーよ美自奈!と、九郎は叫んだ。
「ふふん?美自奈様と呼べば、抱かせてあげるよ!」
「いや、いらない。」
途端に冷める九郎。
「戸成さん、いろいろ残念だよ?」
「あははは!まあ、いいからサクッと作詞しよっ!作詞だけにサクッっとね?」
美自奈が持ってきたカードを使って、さっそく九郎は作詞してみることにした。
九郎は、まずカードを裏返してシャッフルした。そしてシャッフルしたカードを1枚ずつ出して並べた。
「うーん、“こんな”の次に“どんな”か…。強制的に順番で並ぶって決めたけど、なんとなく違うのがいいなぁ。どうしたらいいですかね、三宇先輩」
「この単語は違うな、と思うなら順番を変えて使ってもいいし、使わなくてもいいと思うよ。」
カードに書かれているのは単語のみだ。九郎は出た単語をノートに書き留めつつ、歌詞にするため必要に応じて単語同士をつなげていった。カードを次々と出し、単語をつなげる、これを繰り返すのだが、途中で歌詞が勝手に思い浮かんでくるようなひらめきがあるかもしれない。替え歌のときと同じように、ひらめいたときにはそれを優先させた。
「思いつかないなら、さらにカードを引いて利用するだけだよ。」
「自分で思いつかなくても勝手に歌詞ができあがるから楽ですね。」
せっかくだからと治久と美自奈もカード引きに参加した。3人であーだこーだと言いながら書いているのも手伝ってなのかもしれないが、本当にサクサクと作詞が進むなぁと九郎は思った。
「元がJ-POPっぽい単語が入ってるカードだから、それっぽい歌詞がサクサク作れてめちゃくちゃ便利だしょ?」
チャンスを狙っていたかのように、これ見よがしでチョコスナック菓子をサクサクとむさぼる美自奈を、九郎はあえて見なかったことにした。ところが突っ込みが入らなかったことで美自奈が一瞬がっかりした顔をしたので、ちょっと罪悪感を感じる九郎である。
「…俺にも1個残しておけよ、美自奈。」
「実はもう2袋用意してる!」
美自奈はスナック菓子を九郎と治久に渡し、ぱぁあっと嬉しそうに笑った。ちょっとしたティータイムをはさみつつ九郎達は作詞を続けた。
「あっという間にできちゃいました!」
完成した歌詞を九郎は掲げた。
「あとは推敲だね、尾登賀くん。」
「え?推敲ですか?」
「はは、まあこれで完成、でもいいけど。きっとあとで直したくなると思うよ?たぶん3日間くらい寝かせておくといいんじゃないかな。」
今はできた喜びのほうが大きいかもしれないが、冷静になって見直すことも大事だ、と治久は念を押した。そんなもんかなぁ?と九郎は首をひねる。
「ねぇねぇ、私作ってる最中にもっと単語があればいいなぁって思ったんだけどさ、九郎ちん。」
「ああ、それは思った!」
これはちょっと違う、などと言って3人でカードを出していたのだが一周してしまい、またシャッフルし直してカードを出すことが実は2回ほどあったのだ。その度に美自奈が、単語が少ないよね、と言っていたことを九郎は思い出す。
「狩歌はかなり便利だけど、使う単語はもっとあってもいいよね。歌本に載っている単語を利用して自分でカードを増やすのも方法の1つかな?」
と、治久が言った。
「それならJ-POP以外でも童謡とか洋楽とか演歌とかでも対応できそうっすね、さすが三宇先輩。」
「先輩、手間増やしアイディア出すの好きですよねぇ、あははは!」
にぎやかな笑い声が響くミュージックラ部で、これからも作詞トレーニングはまだまだ続きそうだぜ!と思う九郎だった。
「とりあえず3日後にこれを見直そうっかな。」
男割り
この話は完っ全にアフィリエイト目的のフィクションです。